【駐在歴4年が伝授】中国赴任が決まったら準備すべきこと
2020-10-05 中国のビジネスや文化・マナー

中国語学習コーチ
深谷 百合子
「中国転勤・赴任が決まった。さて、何から始めれば?」
パスポートやビザの準備に加え、家族はどうするか? 家は? 車は? 等、考えなければならないこと、やらなければならないことが一気に押し寄せてきます。
多くの場合、ビザ等の手続きは会社が段取りしてくれると思いますが、本人が直接出向かなければならない手続きもあります。忙しい中、時間のやりくりが必要になるので、準備は効率よく進めたいものですよね。
私は日本の会社からの出向で1年間の現地駐在を経験した後、中国国有企業へ転職し、現地に3年間滞在しました。日本の会社からの赴任では、会社から言われた通りに動くだけで事が進みました。でも国有企業に転職する時には、ドキドキハラハラの連続。もちろん会社はサポートしてくれましたが、日本のように至れり尽くせりではありません。主体的に動くことが求められました。
そこでこの記事では、私自身の経験を踏まえて、赴任までの大まかな流れと、色々な手続きで迷ったことや注意点等についてご紹介します。
目次
日本で行う手続き
日本での各種手続きについては、分かりやすく整理されているサイトが沢山ありますので、そちらに譲りますが、多くの場合は、会社で段取りしてもらえると思いますので、指示に従って対応することになります。
どの申請も所要日数がかかるので、早めに準備するのが得策です。
また、分からないことが多いので、ネットで色々調べたりしましたが、結局それぞれの窓口に直接問い合わせることが一番効率的でした。
赴任者本人が手続きするもの、出向かなければならないことは、以下の通りです。
①パスポート申請・有効期限延長申請
まず、真っ先にやらなければならないのがパスポート関連の申請です。
赴任が決まったら、すぐに取り掛かりましょう。
②卒業証明書の取得
卒業した学校に発行を依頼します。学校のホームページ等で請求方法を確認し、
早めに取得するようにしましょう。
③「外国人体格検査記録」の取得
居留許可申請取得のために必要な書類です。ビザ取得後中国で受診することも可能です。
検査は指定された病院で受ける必要があります。詳細は、中国大使館ホームページよりダウンロード可能です(http://www.china-embassy.or.jp/jpn/lsfu/bgxz/P020120605528249932489.pdf)
費用は病院によって違いがありますが、大体2万~3万円です。
結果は、1~2週間後に本人が受け取りに行かなければならない場合がほとんどです。
日本で取得した「外国人体格検査記録」は、現地でそのままでは利用できず、現地の公認医療機関に出向いて証明書を発行してもらう必要があります。結局、証明書の発行のために時間と費用が発生してしまうので、「外国人体格検査」は、中国に赴任後、現地で受診する方が効率的と思われますが、会社とよく相談のうえ手続きして下さい。
④「犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)」の取得
住所登録地にある警察本部で手続きをします。
パスポート、運転免許証等の氏名、住所が確認できるものと、証明書が必要であることが確認できる書類が必要です。私の場合は、会社が発行した「海外派遣証明書」と「外国人就業申請書」を提出しました。
都道府県によって若干違いがあるようですので、事前に問合せをして確認しておくことをお勧めします。
なお、私の同僚の経験談ですが、パスポートに記載の本籍地と運転免許証に記載の本籍地が違っていると、事前にパスポートの更新もしくは運転免許証記載事項の変更手続きが必要でしたので、ご注意下さい。
警察本部での手続き自体は簡単です。無犯罪証明書取得の手続に来た旨を告げると、部屋に案内され、書類を確認後、指紋を採取されて終了です。
証明書は1~2週間で発行されます。申請時に申し出れば、会社の総務部門等、代理の方に受取りを委任することもできます。
その他の書類
その他、中国側の受入れ企業で「外国人就業許可証書」等の申請手続きの際に必要となる書類への記入や、職歴証明(日本側の会社に発行してもらう)、退職証明(日本側の会社を退職して中国企業に就職する場合)等の書類、HSKを取得している場合は成績報告書(受験日から起算して2年以内)の写しを提出しました。
※ここに注意!
日本の企業から赴任する場合は、会社の指示に従って準備していけばOKでしたが、現地の企業に就職しようとする場合は、会社からの指示を待つのではなく、自分から主体的に働きかけていくように心がけておくといいと思います。
省によって対応が違っていたり、必ずしも必要な書類がチェックリストのような形で存在しているとは限りません。「○日までにこの書類を提出して下さい」、「写真があと1枚必要です。今有りますか?」と突然言われて慌てることも多々ありました。
何が、いつまでに、いくつ必要なのかを会社に確認し、先手先手で準備していくことをお勧めします。また、会社側で行う申請の進捗状況も確認しておくと安心です。
現地で行う手続き
入国後の手続きは、受入れ側会社の指示に従い、早めに行いましょう。2寸や1寸の顔写真も多めに準備して、いつでも提出できるようにしておくと、急な提出依頼があっても慌てずにすみます。国慶節や春節は手続きができませんので、それらを踏まえて入国日を決めることも必要です。
①健康診断証明の取得(または「外国人体格検査記録」の取得)
日本で「外国人体格検査記録」を取得した場合は、駐在地の公認医療機関で証明書を発行してもらう必要があります。
日本で取得せず、現地で受診する場合も同様に駐在地の公認医療機関で受診し、「外国人体格検査記録」を取得します。
②居留許可申請
中国に入国後、居留許可申請を行います。詳しくは会社の指示に従いますが、企業所在地にある出入境管理局へ出向き、パスポート、外国人就業証等の必要書類を提出します。写真を撮ったりするので、必ず本人が行かなければなりません。
居留証発行まで15営業日ほど要し、その間パスポートは預けたままとなります。
パスポートを預けた際に、代わりに身分を証明するものとして「受理票」を渡されます。この受理票があれば、中国国内での移動や宿泊は可能ですが、国外への移動はできませんので、注意しましょう。
③居住証明
住居が決まったら、契約書とパスポート、部屋のオーナーの不動産売買証明及び身分証明等の書類を持って住所地を管轄する公安で手続きをします。
私が手続きに行った時には、途中で公安のシステムがダウンしてしまい、「今日は手続きできない」と言われて、出直す羽目になりました。そんなハプニングもありますので、日程には余裕を持ちましょう。
④在留届の提出
外国に3か月以上滞在する場合、在留届の提出が義務付けられています。住所が決まったら、在留届を提出しましょう。インターネットで簡単に申請できます。(https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/zairyu.html)
⑤携帯電話・Wifi
中国移動、チャイナユニコム等の大手キャリアでSIMカードを購入しますが、外国人がパスポートで購入できる店舗は限られています。
店に入ったら、まずパスポートで購入できるかどうかを確認しましょう。その店で購入できない場合は、どこで購入できるかを親切に教えてくれます。
部屋のWifiも同様です。パスポートで購入できる店舗で契約の手続きをします。その後、設置工事の日程を調整します。
⑥銀行口座の開設
会社からの給与振込みがある場合は、会社が指定する銀行で口座を作る場合が多いと思います。口座開設時には、パスポート、居留許可証の他、銀行によっては中国での納税証明書が必要となる場合があります。
私が勤めていた会社では、毎月人事部門から納税証明書を受け取っていました。納税証明書原本は、日本の銀行への送金の際に必要となりますので、受け取ったら念のためコピーをとって控えも持っておくと安心です。
HSK取得状況も就業許可申請における評価基準の一つ
外国人就業許可申請では、基準に対する得点によって、A類(ハイエンド人材:85点以上)、B類(専門家人材:60点以上85点未満)、C類(その他外国人材:60点未満)に分類され、優遇や制限を受ける制度になっています。これには、中国経済や技術の発展に寄与する優秀な外国人人材を確保していこうとする狙いがあり、A類になると、許可申請の所要日数短縮等の優遇措置があります。
年収、年齢、学歴、業務経験年数等の他、中国語能力についての評価基準もあります。
(基準の詳細はこちらを参照下さい:https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/country/cn/invest_05/pdfs/cn10A020_syugyokyoka_rank.pdf)
ポイント項目 | 基準 | 得点 |
---|---|---|
中国語能力 | 以前に中国籍を有していたことのある外国人 | 5 |
中国語教育による学士以上の学位を取得している | 5 | |
HSK5級以上 | 5 | |
HSK4級 | 4 | |
HSK3級 | 3 | |
HSK2級 | 2 | |
HSK1級 | 1 |
中国語能力に関する項目は5点満点ですが、HSK5級以上を取得していれば5点つきます。
他の評価項目と違い、この部分は今からでも自分の努力でポイントを上げることができます。駐在者の多くの場合はBランクで申請されることになると思われ、この中国語能力のポイントが1点上がったからといって大きな影響はないかもしれません。それでも、こうしてHSKの取得状況が評価基準の一つに加えられているということは、見過ごせません。ぜひ上位の級を目指して挑戦して下さい。
どうする? 住民票
海外赴任の際に住民票をどうするか悩まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
私の場合、日本の会社から出向した時は、会社からの指示に従い、海外転出届を提出しました。手続きの際には、マイナンバーカード(または通知カード)や印鑑登録証も必要になるので、事前に自治体のホームページ等で確認して手続きをしましょう。
また、住民登録が無くなると、銀行によっては口座を解約する必要があったり、証券取引ができなくなるといった制約があります。詳しくは銀行や証券会社に問い合わせて下さい。
次に、私が日本の会社を退職して中国企業に転職した時には、自身の諸事情を考えて住民票はそのまま残しました。日本の会社を辞めたので、国民健康保険と国民年金に加入し、現地滞在期間中も支払いました。
住民票を残すことで気になったのが「税金」。所得税法でいう「居住者/非居住者」と住民票の有無は直接関係ないという話は見聞きしていましたが、あれこれ一人で調べても結局何が本当か分からないので、最寄りの税務署に事前予約をして相談に行きました。
税務署では、私が中国企業で得ている給与は国内で発生したものではないので、課税の対象にならないと教えて頂き、他にどういうものがあれば申告する必要があるのかを親切に分かりやすく教えて頂くことができました。
どうするのが良いのか迷うことがあれば、やはりそれぞれの窓口に相談するのが一番効率的で確実だと思います。
ここがビックリ! 現地の健康診断
就業許可申請・更新の際に、現地で外国人体格検査を受ける場合もあります。ここでは、検査の雰囲気の一端をご紹介します。
検査は会社から指定された機関で行います。必要書類を窓口に提出して、血液検査、尿検査、心電図、視力検査、腹部エコー、胸部レントゲン等の検査を受けます。
まずビックリしたのが、採尿容器の小ささ。日本では紙コップですが、中国で渡されたのは、ひとくちゼリーの容器を少し大きくした位の容器。とにかく小さいのです。なかなかの難易度です。
次にビックリしたのは、心電図やエコーでベッドに横たわる時です。日本だと靴を脱いでベッドにあがりますが、中国ではそのまま。「えっ? いいんですか?」という感じです。
検査の順番も、日本のように「次は何番に行って下さい」のような細かい案内はないので、すいていそうな所から回りますが、腹部エコーだけは尿検査の前に済ませた方がよいようです。
私が受診した時のことですが、尿検査を済ませて腹部エコーを受けた時に、こんなやりとりがありました。
先生:「もしかしてあなた、先に尿検査しちゃったの?」
私:「はい、ここに来る前に」
先生:「だめよ。水分が溜まってないと検査できないのよ」
私:「え、そうなんですか?」
先生:「待合室で沢山水を飲んで、30分位してからもう一度来て下さい」
そのようなことがありますので、ご注意下さい。
会社によっては通訳が同行してくれることもあると思いますが、「呼气(hū qì:息を吐いて)」、「吸气(xī qì:息を吸って)」、「憋气(biē qì:息を止めて)」といった辺りの中国語は覚えていくといいですね。
帰任時の手続き
最後に、帰任時の手続きについても少しご紹介します。
帰任の際は、居留許可の失効手続きが必要になります。日本の会社から赴任している場合は、会社の指示に従えば問題無いと思いますが、中国企業に勤めている場合は、赴任時同様に自分から主体的に動く方がよいと思います。
退職日、帰国日が決まったら、会社側も書類の準備がありますので、早めに会社の担当者に手続きや日程について相談しましょう。
失効手続きも企業所在地にある出入境管理局へ出向き、パスポート、会社が用意した必要書類を提出します。その際、いつまで滞在する予定かを聞かれます。私は1月1日のフライトで帰国する予定でしたので、少し余裕を持って1月10日と回答しました。失効手続きが終わってパスポートが戻ってくると、「停留」というビザが貼られていて、そこに「1月10日までは停留することを許可する」旨の記載がありました。
天候などの影響でフライトがキャンセルになるといったケースも考えられるので、滞在期限は少し余裕を持たせておくといいですね。
なお、失効手続きの際も、パスポートを預け、代わりに受理票を受け取ります。5営業日程度の日数がかかりますので、帰国日が決まっている場合は注意して下さい。
私はもともと12月31日のフライトで帰国し、元旦を日本で迎えるつもりだったのですが、業務の都合で人事の担当者と日程が合わなかったりして、結局ぎりぎりの12月26日に手続きに行きました。「何とか12月30日に受取りできないか?」と聞いてみたのですが、「31日にならなければ受取りできない」と一蹴され、フライト変更を余儀なくされました。人事の担当者と、もう少し日程をよく調整すれば良かったなと反省しました。
最後に
いかがでしたでしょうか?
中国では地域によって対応が違っていたり、制度がどんどん変わっていったりするので、なかなか物事がスムーズに進まないことが多いです。
ここでご紹介した事例は2016年から2019年までの状況ですので、今はまた新型コロナウィルスへの対応で変化していることもあると思いますが、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

深谷 百合子(中国語学習コーチ)

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